人斬り禅兵衛 概要
亜寡町の郊外にある小さな集落。
町の中でもかなりの貧困層にあたるこの名も無き地域では、
その貧しい暮らしに似合わぬほど陽気な人々が日々協力しあって暮らしていた。
ここの住民達は非常に仲が良く、それ故、辛い事があっても明るく笑いながら
楽しく過ごす事が出来るのだった。
集落の中ほどにあるボロボロの長屋の一角。
ここに
禅兵衛(ぜんべえ)という男が住んでいる。
この男、昼間から畳で横になり、気侭に酒をかっくらい、
髭とだらしなく括っただけの髪は伸び放題。
たまに外に出たと思うと大欠伸をしながら川に釣りに行く始末。
そんな変わり者の禅兵衛に集落の子供達は非常に良く懐き、
また禅兵衛も群れてじゃれる子供達を事を嫌がる事無く相手をしていた為、
集落の人々からは仕事の合間の子守人として、それはそれで有難がられていた。
そしてこの男。
今でこそ、この集落でひっそりと長屋暮らしをしてはいるが、
実は各地で名を馳せた事もある程の武芸の達人であり、
今では口入れ屋を通して、悪人を殺める事を生業にしていたのだった。
そう、禅兵衛は「人斬り」なのである。
そんな禅兵衛の秘密の裏稼業も、実は集落の住民は全員承知の上。
というのも、ゴロツキや盗賊から禅兵衛が集落を救ったのは一度や二度では無く、
禅兵衛が仕事で斬る相手も、私腹を肥やした悪党と皆はわかっていたからだった。
この禅兵衛あっての平穏な暮らしが皆を明るく陽気にさせていたのだ。
子供達をはじめ、人々はこの陽気で気侭な男を「人斬り禅兵衛」と呼び、
慣れ親しんでいたと言う。
「謳朧草子・人斬りの禅兵衛より」