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女鬼武者 概要

この静越地方に伝わる偉人伝承の一つ。

今は昔、隣国との合戦が頻繁に行われていた時代。
隣国の軍勢が国境の峠までじわじわと押し寄せる中、
兵力に劣るこの地方の領主、浅葱(あさぎ)は攻めるか守るかの判断を決めかねていた。

ある夜、軍勢きっての豪腕豪傑で知られる女武者、安芸(あき)が少数の手勢で
勝利を目前に控えたと確信して浮かれている敵陣に夜襲をかけると申し出た。

浅葱から苦渋ながらも夜襲の許可を得た安芸は、与えられた僅かな精鋭と共に
夜の山を静かに駆け下りていった。


安芸の予想通り、勝利を確信して酒に酔い浮かれている敵の軍勢。

気合の雄叫びと共に勢い良く斬り込み、陣営に火を放ち、
予想外の夜襲にうろたえる敵を次々に薙ぎ倒した。

何度も突撃を繰り返し、広大な敵陣を駆け抜けるが、
圧倒的な敵の兵力の前での安芸の手勢はあまりにも微弱であった。


やがて、体勢を整えて反撃してくる敵に次々と手勢は討たれていき
、 勢いを失った安芸は敵兵に完全に包囲されてしまう。

このまま討ち死にするまで戦うという手段も頭をよぎったが、
それよりも領主、浅葱に敵勢の報告をせねばと恥を忍んで山に引き返す決意をする。


気力と体力の限界は既に超えていた安芸にとって夜の山は困難な道のりであったが、
それでも執拗な敵の追っ手を次々に斬り殺して血路を開き駆け抜けた。

遂に手勢は全てやられ、安芸一人となったが、尚も山をひた走る。


そして、頂上にさしかかり あと一歩で自軍にたどり着くという所で、
安芸の目に飛びこんだのは・・・


自陣の城が敵襲により燃え上がり、夜空を赤く染め上げている光景であった。


帰る場所を失った安芸は、踵を返し、尚も迫り来る追っ手に向き直った。


もう帰る場所は無い。

眼下で燃え堕ちた浅葱に捧げたこの命。

共に朽ち果てる希望すらも奪い取られてしまった。

かくなるうえは
ひとりでもおおくのみちづれをじごくにおくりこんでくれよう。


血に濡れ刃こぼれした刀を握り締め、手綱をひく。

我が主を奪った憎き敵兵が徐々に包囲する。

兜を脱ぎ捨て、叫びながら渾身の力で斬りかかった。

その強さは鬼の如し、次々に押し寄せる敵を片っ端から
蹴散らし、薙ぎ払い、斬り捨てる。



もはや何も聞こえない、何も見えない・・・

痛みもない、何も感じない・・・

すぐに、おそばにまいります。



馬は倒れるが、すぐさま立ち上がる安芸。

討ち取った敵から奪い取った刀であたりを斬り払う。

燃え盛る業火を背景に、長い髪を振り乱して幾多の首を撥ねる。

返り血浴びて、真紅に染まる。もはや鬼の形相。

一心不乱に薙ぎ払うその鬼の姿に、
震え慄いた敵兵は次々に山から逃げ出したのだった・・・・・・


浅葱の城が陥落した翌朝、残党狩りのため、
多数の兵があたりの山を捜索したが、

酷く朽ち果てた安芸の鎧と刀が見つかったきりで、
安芸本人の姿はどこにもなかった。


安芸は、決死の覚悟で敵陣に飛び込んだ勇猛な女武将と称えられた一方で、
数百の敵を斬り殺し、気迫で敵を追い散らした「女鬼武者」として恐れられ、
語り継がれた。





「紫陽花奇譚・女鬼武者の刀より」

女鬼武者 歌詞

作詞:お優美  作曲:狐邇  編曲:奏手候


嗚呼 白い指が紅に染まる
紅い唇は紫色に変わり行く
あの方に伝えなけりゃ 
嗚呼!

恥を忍んで翻す 
背中向けりゃ武士の恥よ
けれどそんな事よりただ 
あの方のお役に立つと誓った

想いを殺して葬らん

追っ手蹴散らし帰った先にゃ 
赤い炎が夜空を染める
全て燃えて飲まれて行く 
共に果てる事すら出来ぬ

もうどこにも帰れない

この命捧ぐ 
貴方へ忠誠を
かくなる上は
仇を討たん

一人でも多くの道連れを引き連れ 
地獄へ落ちる

もはや何も聞こえない 
見えない 
痛みすら無い 
感じやしない

今すぐにお側に参ります
あの方の居ぬ憂き世になど
何の未練も残っていやしないのだ
これが運命

秘め事なら秘めたままで
貴方愛し悔いは無い