桜小路暮色 概要
静越地方の最大の繁華街、
亜寡町の中にある
桜小路という通り。
その名の由来にもなった程の見事な桜並木通りの周りは、
様々な見世物小屋から女郎小屋まで立ち並ぶ欲望の花町である。
浮世離れしたその情景は艶やかで華やかに見える世界ではあるが、
その実態は桜小路の名とは真逆の過酷極まりない世界だった。
遊女と一言で言ってもその中身は多種多様。
太夫や花魁の高級遊女に焦がれ夢見て自ら志願する者、
実の親から僅かな銭で身売りされた者・・・
それぞれの境遇と現実が入り乱れる様子は正に人生の坩堝であった。
その殆どは己の身ひとつで、莫大な金銭を稼ぐ事を余儀なくされ、
人を欺き欺かれ、騙し騙される生活を繰り返す有様であった。
そのあまりの過酷な状況に耐え切れず窓から抜け出し、
屋根を伝い逃げ出す遊女も数知れず。
すぐさま捕らえられ、折檻され、重い厳罰で精神を病み、
遂には首を括る者、井戸に身を投げる者も数多くいた。
とある夕暮れ時。
橙がかった綺麗な桜色に染まる桜小路の広小路。
年端もいかぬ名も無き少女が一人、佇んでいた。
幼い顔立ちに似合わぬはだけた妖艶な衣装。
汚れた男達の欲望の捌け口となり感情が無くなってしまったのか、
その虚ろな目はまるで硝子玉のようであった。
無表情のような微笑のような泣き顔のような。
そんなどうとでも取れる表情を浮かべて、
少女は一体何を想っているのだろうか・・・
「亜寡町風俗往来・桜小路より」